脇汗の治療

こちらのページで「多汗症」という病気についてお話しました。

今回の記事では、腋窩多汗症(えきか たかんしょう=脇の多汗症のこと)と診断された患者がどのような治療を受けられるのかをまとめています。

気になる保険適用についても記載していますのでぜひ参考にしてください。

そもそも脇汗の悩みで病院に行くなら何科?

脇汗 病院 何科

多汗症の治療を行っている診療科は次のとおりです。

  • 皮膚科
  • 美容皮膚科
  • 麻酔科(ペインクリニックを含む)
  • 形成外科

ただし、すべての医療機関で行っているわけではないので注意が必要。街の小さな皮膚科では多汗症の治療を行っていないことがあるので、事前に電話や公式サイトで確認しましょう。


脇汗治療法の概要~おおまかな分類

病院で受けられる脇汗の治療ですが、大きく次の2つに分けられます。

  • ガイドラインで定められている治療法
  • その他の治療法

ここで言うガイドラインとは、日本皮膚科学会が策定した原発性局所多汗症診療ガイドラインのこと。

日本で受けられる多汗症治療は基本的にこのガイドラインに沿って行われ、脇汗の場合は以下の流れになります。

腋窩多汗症 治療の流れ

これに対して、ガイドラインに載っていなくても有用性が確認できている新しい治療法というものがあります。

こうした治療法は美容皮膚科やクリニックで受けられることが多く、当サイトでは「その他の治療法」として分類させていただきました。


多汗症ガイドラインで定められている脇汗の治療法

塩化アルミニウム外用

保険適用:なし

塩化アルミニウムを配合した、いわゆる ”塗り薬” 的な制汗剤。自分で塗るだけという手軽さで効果が高いため、治療の第1選択とされています。

塩化アルミニウムについては説明が長くなってしまうため、詳細は以下のページをご覧ください。

脇汗治療の第一歩は塗り薬の塩化アルミニウム~メリットや副作用を解説

ボトックス注射

保険適用:重度の腋窩多汗症のみ適用

美容皮膚科でのシワ・たるみ解消などアンチエイジングでおなじみのボトックス注射は、多汗症の治療でも行われています。

ボトックス注射については説明が長くなってしまうため、詳細は以下のページをご覧ください。

脇汗にボトックス注射は効果的ですが…見落としがちなデメリットも!

胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(ETS)

保険適用:あり

塩化アルミニウムやボトックス注射といった人体を傷付けない保存的療法をやっても効果がなかった場合に、最終手段として「胸腔鏡下 胸部交感神経 遮断術(ETS)」という手術が出てきます。

ETSはワキの下の皮膚を2~4ミリほど切開し、そこから胸腔鏡という内視鏡(胃カメラみたいなもの)を入れ、交感神経を切り取ったり焼き切ったりする手術です。

発汗を支配している神経そのものを遮断するため、汗をほぼ永久に抑えることができますが、合併症として他の部位の汗が増えてしまう代償性発汗(だいしょうせいはっかん)のリスクがあります。

ガイドラインでは推奨度が低い治療法ということで欄外に記載であり、実際のところ脇汗の治療でこのETSが行なわれることはほとんどありません。

というのは、塩化アルミニウムやボトックス注射などの保存的療法でほとんどの人が効果を実感できるからです。

神経を遮断するといった、医師にとっても患者にとっても大変な手術をわざわざする必要性がない、ということですね。

ETSはあくまで最終手段であり、メリットだけでなく代償性発汗というデメリットがあるため、医師はきちんと説明し患者はしっかり理解・納得したうえで決めるべきです。

メリット

  • 効果がほぼ永久に続く
  • 手術後の傷跡が小さくて目立たない

デメリット

  • 代償性発汗のリスクがともなう
  • 一度切断してしまった神経は元に戻すことができない

内服療法(プロバンサイン)

保険適用:あり

抗コリン薬と呼ばれる薬で、汗を出すときの神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を抑えます。

ただ腋窩多汗症の場合はあくまで併用療法というサブ的な位置づけであり、内服療法が主に行われるのは塩化アルミニウムが使いにくい顔汗の治療になります。

メリット

服用後15~30分ほどで効果があらわれるため、ここぞというタイミングで汗を止めることができる。

デメリット

  • 効果が4~5時間ほどと一時的で短い
  • 口や喉の渇き、ドライアイなどの副作用がある

その他の治療法

医療は日々進歩していて、多汗症においても新しい機器を使った治療法がどんどん開発されています。

ガイドラインにはまだ載っていないそうした機器を、美容皮膚科や形成外科がいち早く取り入れて診療を行っています。

ミラドライ

保険適用:なし(25~45万円。再発時の保証があるプランなど料金はまちまち)

ミラドライとは、アメリカのMiramar Labsが2006年に開発したワキガ・多汗症の治療機器。

マイクロ波と呼ばれる電磁波を皮膚の上から照射し、その熱により汗腺を破壊することで汗とニオイを抑える治療法です。

メリット

  • ワキを切らないため傷跡が残らない
  • ダウンタイムがほとんどない

※ダウンタイム:施術してから回復するまでの期間のこと

デメリット

  • 一回の施術ですべての汗腺を破壊できるとは限らず再発の可能性も
  • 自由診療のためクリニックによって価格がまちまち(なおかつ高額)

ビューホット

保険適用:なし(30万円前後)

ワキの下に極細の針を刺して、針先から出る高周波で汗腺を破壊する治療法。ミラドライと同じく、ワキガ・多汗症に効果が期待できます。

ただ実際に行なっている病院はとても少なく、地方では施術できないことも。

メリット

  • ワキを切らないため傷跡が残らない
  • ダウンタイムがほとんどない

デメリット

  • 一回の施術ですべての汗腺を破壊できるとは限らず再発の可能性も
  • 自由診療のためクリニックによって価格がまちまち(なおかつ高額)

ミラドライと似ているためメリット・デメリットもほとんど同じですが、ビューホットは針を刺す関係上、人によってはひどく腫れたり色素沈着を起こすケースがあるようです。また残念ながら再発してしまったという声もそこそこ聞かれます。


脇汗の手術で剪除法や稲葉法は行なわれないの?

脇汗の手術を調べると、剪除法(せんじょほう)とか稲葉法という名前を目にすると思います。

他にもクワドラカット法や超音波メス法など、インターネットで調べると多くの外科的治療法が見つかるでしょう。

それぞれの治療法の詳細はここでは書きませんが、共通しているのは以下の2点。

  • 皮膚を切開する
  • 汗腺のみ、あるいは汗腺周辺の組織を取り除く

汗腺やその周辺を取り除く方法は、ハサミで切除したり粉砕した組織を吸引したりとかなり大掛かりな手術となります。

そしてこれら外科的治療は多汗症ではなく主にワキガで行なわれる手術です。

汗腺周辺の組織を取り除くことで理論上は多汗症にも効果がありそうですが、ガイドラインにはこうした外科的治療の記述はいっさいありません

これはおそらく、体を傷つけない保存的療法が患者にとって最適であること、先ほどのETSと同じで脇の多汗症は塩化アルミニウムやボトックス注射で十分な効果が見込めることなどからガイドラインでは推奨していないと考えられます。


とにもかくにもまずは塩化アルミニウム

このように、それぞれの治療法には一長一短ありますが、病院へ行きまず第一に提案されるのが「塩化アルミニウム外用」です。

これはやはり誰でも効果が見込めること、自分で塗るだけと手軽なこと、体を傷つけない保存的療法のため後戻りができること、などの理由があります。

人によって痒みや肌荒れなどの心配はありますが、副作用としては軽度といってよい部類なのでまずは試したい治療法なわけです。

それ以外の治療については医師との相談によって決められることになります。

脇汗治療の第一歩は塗り薬の塩化アルミニウム~メリットや副作用を解説